「レイドさん、クウェアーさんは右から、アルセムさんとジュンさんは左から攻めてください!!」
1人の青年が戦場で命令を飛ばしている。
「ミルフィー!前衛のヨスクがやられた。どうする!?」
レイドと呼ばれた長身の男が命令を飛ばしていた青年に問い掛ける。
「ヨスクさんがですか!?まさか、あの人がやられるなんて・・・相手は一体どんな奴を送り込んできてるんだ・・・」
ここは鮮血滾る戦場。
セントハーゼン南端のオーゼナーシュ平原。
ミルフィーと呼ばれる青年率いるピョルト傭兵団はそこにいた。
本来なら指揮を取るのはミルフィーではなく、ゴンドラードと呼ばれる団長だが、彼は今別の戦場に出ている。
「通達します!」
汗を吹かしながら1人の傭兵がミルフィーのもとへ走ってきた。
「何か問題ですかっ!」
「はっ!物見台からの報告です!敵の中にノースウッド族が居る模様!総数不明です!」
「・・・ノースウッド族が・・・マズイですね、彼らはこのセントハーゼンでは最大の戦力を誇る一族。最低でも数万の兵力はあるはず。」
ミルフィーが1人考えこむ中、1人の青年が話しかけた。
「ミルフィーさん、私に一つ案があります。」
「ジュンさん。アルセムさんと出たんじゃないんですか!?」
ジュンと呼ばれた青年は見た目は普通の青年だが、普通の人間とは少し違う部分がある。
彼の背中には翼がある。それも6対12枚の翼。彼はフェザーウォルクという有翼族で、翼の枚数が多いほど一族の中で位が高い。
「あの場はアルセムさんに任せてきました。大丈夫、彼は傭兵である前に魔術師です。私が居なくともあの場は食い止められますよ。」
「はぁ、それならいいんですが。ジュンさん。それでその案っていうのは・・・?」
ミルフィーがジュンにおずおずと問い掛ける。
「私が敵の後ろに回り込み敵を撹乱します。その間にランドさんに敵の中に特攻してもらい、散りじりになった敵を全員で叩くんです。」
「ランドさんをですか!?無理ですよ!彼女は団長の命令でもまともにきく事が少ないのに、ましてや僕の命令なんて・・・」
「あたしが、なんだって?」
「!!!!」
ミルフィーとジュンが話し込んでいる間に1人の大剣を担いだ女性が割り込んだ。
「ランドさん!あなた、今までどこにいたんですか!?」
「あぁ!?決まってんだろ、雑魚どもの相手をしてやってたんだよ。」
ランドがいかにも面倒くさそうに答える。
「で?あたしがなんだって軍師さんよぉ?」
「はい、実はですね・・・」
ミルフィーはジュンの出した策をランドに話した。
「なんだってぇ!!!?」
「いえ、無理ならかまいませんが・・・」
ミルフィーがたじたじと後ずさりしながら答えた。
「いいじゃないか。やってやるよ。しっかし、ジュンも良い作戦を考えたもんだねぇ。」
「でしょ!?たまには私もやるでしょう。」
「調子に乗んじゃないよ。」
バシッ
「あいたっ!」
「ランドさん、ジュンさん。ここ、戦場ですから・・・」
緊張感のないランドとジュンをミルフィーが諭した。
「わかってるよ!じゃあミルフィー、あたし達は行ってくるよ。」
「ええ、お願いします。」
「ミルフィーさん。良い成果を期待していてください。」
「ジュンさんも頑張ってください。」
ランドが大剣を担ぎ、ジュンが空から、2人は再び戦場に戻っていった。
「さて、この策で戦況がどれだけこちらが有利になるか・・・ランドさんとジュンさんに賭けるしかないな・・・」
「通達!軍師!大変です!!」
1人の傭兵がミルフィーのもとへ走ってきた。
「どうしました!!」
「アルセムが負傷しました!レイドとクウェアーの部隊も苦境を強いられています!」
「アルセムさんが!?相手は一体・・・」
「おそらくはヨスク隊を打破した者と思われます!」
「くっ・・・それだけ相手も躍起になっているという事か。」
そこに担架に運ばれてくるアルセムが来た。
「アルセムさん!大丈夫ですか!?」
「あぁ、ミルフィーか・・・俺は大丈夫だ・・・少しばかり、右腕がいかれちまったがな・・・くっ!」
アルセムと呼ばれた男は右腕からおびただしい血を滴り落としていた。
どうやら大事な血管まで傷つけたらしい。
「それ以上喋らないで下さい!衛生兵!!はやく手当てを!」
ミルフィーの掛け声で駆けつけた衛生兵がアルセムを運んでゆく。
「あの『鉄壁のアルセム』とまで謳われたアルセムさんまでが・・・この闘い、油断していたな・・・」
汗を拭いながらミルフィーはこの状況をどう打破するか考えたいた。
「ミルフィーーーーーーッッ!!!!」
戦場の中から1人の小柄な女性が駆けて来た。
「クウェアーさん!どうしたんですかその傷!?」
クウェアーと呼ばれた女性はタンクトップとスパッツに鎧を着けたような軽装な装備だが、
その服にはおびただしい切傷と共に、傷口からは止めど無く血が流れて出ていた。
「大丈夫よ、たいした傷じゃないわ!それよりも・・・」
「それよりも・・・?」
クウェアーは少し口ごもってミルフィーに言った。
「・・・レイドが・・・死んだわ。」
「そんな・・・何故レイドさんが・・・」
「相手はとんでもない奴を連れているみたいよ・・・」
「とんでもない、奴・・・?」
「ええ」
「一体、誰なんですそいつは!!」
「『グラナの双剣』よ。」
「!!!」
『グラナの双剣』それはノースウッド族に伝わる宝剣。2本揃っていてこそ本来の力を発揮する。
その力は一振りすると大気を裂き、大地を割るとまで恐れられるが、その力は未知数の剣。
そして使用者の名はわからない中、知らず知らずいつの間にか『グラナの双剣』と呼ばれていた。
「私達2人はミルフィーの命通りに右側から敵を攻めていたわ。でもそこにアルセムがやられたと通達が来たの。そして私達はその場を部下に任せてアルセムの居た場所に行ったわ。流石に相手もアルセムと戦って怪我は避けられないと思ったからトドメを刺しに、ね。」
「・・・」
「そうしたら奴が・・・『グラナの双剣』が居たの。でも奴は傷一つ負っていなかったわ。そうして私とレイドは『グラナの双剣』と戦った。」
「でも、2対1では・・・レイドさんは槍の名手、クウェアーさんも刀の名手でしょう!?」
「名手だからなんて関係ないわ。例えそれが力の差だとしても、私達は『グラナの双剣』には勝てなかった。そして、レイドを失ってしまった・・・」
重々しい会話の中また一つの通達が来た。
「た、大変です!!兵糧が、兵糧庫が敵の伏兵に!!!」
「何!?まだ兵力があったっていうんですか!?」
「ミルフィー!?私達はどうしろっていうの!?このまま尻尾まいて逃げるしかないの!?」
クウェアーは涙目でミルフィーの襟を掴んで叫んだ。
「クウェアーさん落ち着いて!何か、何か策がある筈です・・・」
「そもそもこんな闘い私達が出る幕じゃなかったはずよ?相手はこの地の先住民族、私達はその地を侵略する民族の味方。どう考えたって私達のほうが悪者じゃない・・・」
「今更泣き言は止めてください。それに僕達は人である前に傭兵なんですよ。雇われたからには最後まで役目を果たすまでです。」
「・・・こんな時に団長が居てくれたら・・・」
ミルフィーは歯がゆかった。任された事もまともに出来ない自分が心底情け無くて堪らなかった。
「・・・僕が出ます。」
「・・・ミルフィー・・・?」
「僕も戦場に出ます。」
「何言ってるの!あなたが出ては誰が戦場を指揮するの!?」
「大丈夫です。僕が居なくてもクウェアーさん。あなたがいますから。」
「そんな!私に指揮なんて出来ないわよ!」
「大体の戦況はクウェアーさん。あなたもわかっているでしょう?」
「ええ、ヤバイ状況ってことぐらいはね。」
「なら大丈夫。それだけわかっていれば充分です。」
「それだけわかっていればって・・・全然わかんないじゃないの!」
「大丈夫ですって。じゃ、僕は行ってきます。衛生兵、クウェアーさんの手当ても頼みます!」
そう言ってミルフィーは戦場へ出ていった。
「全く、何もわからないまま指揮なんて出来るわけないじゃないの・・・!」
慌しく兵が動き回る中、クウェアーは1人たたずんでいた。
ミルフィーが戦場に着くや否や。
「ミルフィー様!一体どうしてここに!?」
1人の兵長が話し掛けてきた。
「僕も出る。今兵糧が襲われているんだ。手の空いている者はいないか?」
「こちらも手一杯の状況ですが・・・兵糧が襲われているのでは仕方がありません・・・数名手配しましょう。」
「すまない。」
そして戦場の中、即席で兵数約100名ほどのミルフィーの部隊が出来あがった。
「今この戦況を打破するべくランドとジュンが動いている!私も今から兵糧を襲う敵勢を叩きに向かう!」
「遂に『氷炎』と名立たるミルフィー様が動くのですね!?」
「この戦の勝利、我がピョルト傭兵団がもらったも同然!!」
ミルフィーの部隊の数名がミルフィーが戦場に出た事で沸きあがる。
「敵を軽視してはならない!奴らにはノースウッド族がいる!だがこの戦況、我らの手で変えてみせるぞ!!!」
「オオォォォォォーーーーー!!!!!!!」
ミルフィーの激に部隊全体が答えた。
そして、
「突撃!!!」
ミルフィー達は兵糧の奪還に向けて戦場を駆けて行った。
敵部隊の後方で1人の翼有る青年が奇妙な武器を持って佇んでいる。
どうやら敵に囲まれているようだ。
「通りは『疾風』名は『ジュン』!私を恐れぬならば掛かって来い!」
その青年が気高く敵兵に向かって咆えた。
「なに・・・こ、こいつが『疾風のジュン』・・・!」
「なんでこんな奴がこの戦場に・・・まさか!奴ら、ピョルト傭兵団を雇っているのか!!」
「蛮族風情がやってくれるわ・・・」
敵兵がたじろいだと思いきや、それを束ねる兵長が。
「えぇい、貴様等怯むな!それでも偉大なるセントハーゼンの民か!!我らにはノースウッド族の、『グラナの双剣』が居る!臆する事はない!弓隊、前へ!」
敵兵長が後ろに控えていた弓隊を前衛に呼び出した。
「狙いは『疾風のジュン』だ!放てぇい!!!」
号令と共に幾多の矢が雨となってジュンに向かって放たれた。だが。
「弓矢など、私の敵ではありません!!とおりゃあぁぁぁっ!」
ジュンが手に持った奇妙な武器を前方にかざし円を描くように回し始める。
すると彼の周りに風が集まり始め、ジュン目掛けて放たれた矢が風によって軌道を変えられ天高く舞上がっていった。
「おのれ!妙な武器を使いおってぇ!!」
「あなたにこの武器の名を知る資格はありませんよ。そうですねぇ、『双戦斧』、とだけ言っておきましょう。」
そう言うと、ジュンは天高く飛翔した。
「今度はこちらの番です。」
ジュンは軽やかな笑顔でそう言うと、『双戦斧』と呼ばれた斧の刃が持ち手の後ろにも付いている武器を天高らかに掲げ、地上に目掛けて降り投げた。
「これが私の力です、くらいなさい!アーゼルリヒテイン!!!」
そして勢いよく地上にぶつかった『双戦斧』は風を纏ってその場に猛烈な竜巻を起こした。
ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
「うわああぁぁぁ!」
「た、助けてくれえぇぇ!」
「ぎやあぁぁぁぁぁ!」
荒れ狂う竜巻は周囲の敵兵を巻き込んで吹き飛ばしていった。
「へ、兵長殿!もうこの場は持ちません!どうかご決断を!!」
「うぅむ、『疾風のジュン』めぇぇ。撤退、撤退だぁ!!!」
敵兵長が自分の部隊に撤退命令を出した刹那。
「へ、兵長殿!ああああ、あれを!」
「なんだ想像しい!」
兵士が指した方向を兵長が見ると、そこには1人の女性が大剣を担ぎ、自らが斬ったと思われる兵の骸の上に立っていた。
「き、貴様、誰だ!!!」
兵長がその女性に言うと。
「あん?あたしが誰、だって?ハッ!あんたの目は節穴かい!?」
「何だと!貴様、私を愚弄する気か!?貴様が誰だろうと関係な・・・・・・!」
その時、兵長の言葉が止まった。
「兵長、どうなされましたか・・・」
一般兵が兵長に尋ねる。
「き、金色の目・・・まさか、お前アンチノースウッドか!!!?」
畏怖の念がこもった眼差しで女性を見るが、その女性はそれに対して冷淡な嘲笑で返事をした。
「あぁ、そうさ。あたしはアンチノースウッド族出身だよ。そんなにこの目が珍しいかい・・・?」
アンチノースウッドとはノースウッド族の敵対部族で、ノースウッド族の殲滅に人生を捧げるのを戒めとする一族の事だ。
「・・・悪魔の一族めぇ・・・」
「そう褒めてくれると嬉しいねェ。」
「えぇい黙れ!!」
兵長がそう言うと、女性、ランドの周りを剣兵が取り囲んだ。
「この状況でも強がっていられるかな?」
皮肉めいた口調で兵長がランドに言う中、ランドは表情を変えずに周りを見渡した。
「ひー、ふ、ー、みー・・・おおよそ20人ってとこか。雑魚ばっかだねぇ。」
「フン!そう強気でいられるのも今のうちだ。かかれぇ!!!」
兵長の命令と共に剣兵達が一気にランドに襲いかかる。
「はっ!このあたしを、なめんじゃないよぉッッ!!!!!」
ランドは再び担いでいた大剣を振り上げた。
その頃、ミルフィー隊は・・・
斬・斬・斬!
「ぎゃあっ!」
「ぐおぉぉっ!」
「うぐおぉっ!」
次々とさっきまで兵糧を占拠していた敵兵が絶命してゆく。
「ふぅ。これでここのはあらかた片付いたな・・・」
「ミルフィー様!こちらの兵糧も奪還いたしました!」
額の汗を拭うミルフィーのもとに1人の兵士が駆けつけて来た。
「よし。もう兵糧は安全だ。一応警戒配備を強化する為に数人の兵を残していく。残りの者は再び戦場に戻ってくれ!」
「了解しました!!」
そう兵士が言うと、多くの兵士が戦場に戻っていった。
「はぁ・・・クウェアーさんは、大丈夫かな・・・」
疲れ気味の声でミルフィーが1人呟いていると。
クスン・・・・・・クスンクスン・・・・・・・・・
「?、泣き声?・・・・・・まさかな。」
ミルフィーは疑いながらもその泣き声を確かめる様に耳を研ぎ澄ませる。
クスン・・・クスン・・・
「・・・やっぱり泣き声だ。近いぞ・・・」
ミルフィーは泣き声の正体を確かめるべく、泣き声のする森の中へ入っていった。
ガサガサ
森の中へ数十メートル入った所でミルフィーは戦場で思いがけないものを目にした。
「お、女のコ!?」
そこに居たのは空の様に透き通った青髪を両サイドでロールパンの様な形にして碧色の大きなリボンで結んだ少女だった。
どうやら泣いていたのはこの子らしい。
「くすん・・・くすん・・・・・・」
ミルフィーは不思議に思いながらもその少女に近づいて行く。が。
「!!!」
少女が身構えた。どうやら気付かれてしまったようだ。
「あ、あの、その、僕は怪しいものじゃないよ!」
・・・怪しい。今のミルフィーは怪しさ満点だ。
背を屈めて気付かれない様に近づいていたのだ。
そのポーズから怪しさを感じない方がおかしい。
そして、案の定青髪の少女はミルフィーから遠ざかるように後ろに下がった。と。
「ッ!!!」
青髪の少女が身を丸くして悶えた。
「ちょ!君、どうしたの!?」
ミルフィーの問い掛けにも青髪の少女は応えない。
ミルフィーは少し様子が変だと思いながら青髪の少女に近づいた。
そして、近づくと流石にミルフィーも少女の様子が変な状況に気が付いた。
「君・・・!どうしたんだいその傷!?」
青髪の少女は太腿を押さえ身悶えていた。
その太腿は約10cmほどパックリと裂けており、血が太腿を押さえた手を伝ってポタポタと落ちていた。
「ぅ・・・ぅううっ・・・!」
青髪の少女は血の気こそは引いていないものの、その表情からはこれ以上無いというくらい苦痛に耐えているのがわかった。
「凄い傷・・・!見せてみて。」
そう言ってミルフィーが近づくが、ミルフィーが近づく分少女が離れて行く。
そうして彼女が少しずつ動いている間にも、動いた後には地面に血が1本の線を引いていた。
「ダメだよ動いちゃ!!」
ミルフィーがそう言うものの、やはりこの少女はミルフィーから遠ざかろうとする。
ミルフィーは何故この少女がこんなにも自分を避けるものかと彼女の視線に目をやった。
そして、少女の視線の先にあったものは。
「・・・あ。」
ミルフィーは何故自分が避けられているかわかった。剣だ。
ミルフィーは今右手に剣を持っている。しかもオマケとして新鮮な血がついている。
これでは恐がられるのも当然だ。
ミルフィーは剣を放り出し、少女のもとへ近づいた。
「う・・・ぅぅぅ・・・」
それでも多少は恐がられているようだ。
さっきの様に避けられるまではいかないものの、今度は上目遣いでこちらを不安そうに見つめてくる。
「大丈夫、大丈夫だから、ね?」
ミルフィーはゆっくりとその少女に近づき、なんとか彼女の目の前まで行く事が出来た。
「傷、見せて。」
ミルフィーがそう言うと、少女はおどおどしながらもゆっくりと傷口を押さえていた手を離してみせた。
「傷は・・・大丈夫。そう深くはないみたいだ。」
そうミルフィーは言って少女の太腿に手をあてた。
「大丈夫、ゆっくり目を閉じて・・・」
ミルフィーがそう言うと、まだ不安が残るらしいが、少女はゆっくりと目を閉じた。
少女が目を閉じた事を確認すると、ミルフィーが何か集中しながらブツブツと唱え始めた。
「アル・セムティ・ノア・ウルス・ノーク・ユアノス・セム・オトゥリィ(風と大地の精霊よ、汝の御心を今ここに)」
ミルフィーが唱え終わると、少女の傷口をやわらかい光が包み込んだ。
その光に驚いて目を開けた少女はびっくりしたらしく、今度はミルフィーにしがみついてきた。
「大丈夫だよ。傷口を見てごらん。」
ミルフィーの言う通りに少女は自分の負った傷を見てみるが、光が消えたころには傷口など見る痕も無くなっていた。
不思議そうに少女が傷口があった場所をペタペタと何度も触る。
「ハハハ、大丈夫だよ。傷は治ったからね。」
少女は未だに我が身に起こった現象を理解出来ず、眉をヘの字に曲げて不思議そうに傷があった場所を見つめていた。
その光景下にある少女はさっきまでとのギャップが激しく、今の少女の困った様な表情がミルフィーにはなんとも微笑ましく見えた。
「魔法、見た事が無いの?」
ミルフィーの問い掛けに少女は小さくコクリと頷いた。
「・・・ありがとう・・・ございます。」
小さく少女が呟いた。
「いや、いいんだよ。」
どうやら言葉は喋れるらしい。
「君、名前は?」
ミルフィーが少女に問い掛けると。
「・・・・・・ラミア・・・。」
どうやらこの少女はラミアというらしい。だが、如何せん声のボリュームが小さい。
「そう、ラミアちゃんか。僕はミルフィー。女みたいな名前だけどれっきとした男だよ。よろしくね。」
「・・・よろしくお願いします・・・」
・・・ボリュームが小さい。聞き取るので精一杯というくらいだ。
「ラミアちゃんはどうしてここに?」
「・・・・・・ちょっと・・・」
「・・・ちょっと?」
その時、花が咲かない会話に四苦八苦するミルフィーのもとに。
ラミアーーーーー!ラミアどこに居るのーーーーーーー!!
何処からかこの少女の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「・・・・・・お姉様・・・」
ポツリとラミアが呟いた。
「お姉様、ってことは・・・君のお姉さんかい!?よかったね。心配して迎えに来てくれたんだよ。」
ミルフィーがラミアの喜びを代弁したように喜んでいると。
「・・・・・・逃げて・・・」
ラミアがまた何か呟いた。
「・・・何?ごめん、良く聞こえなかったんだ。もう一度言ってくれる?」
「・・・・・・逃げて・・・早く・・・!」
今度はミルフィーにも聞こえた。【逃げて】だ。
だがミルフィーにはその意図したものが全くわからなかった。
「早く・・・逃げてください・・・!でないと・・・ミルフィーさん・・・!」
ラミアが必死の表情で訴えかけるも、ミルフィーには意味が全くわからなかった。
「ちょ、ラミアちゃん!どうして僕が逃げなきゃならないんだい!?」
「・・・・・・それは!―――――」
ラミアが続きを言おうとしたその時。
「あぁーーー!ラミア、いたいた!何してるのよ全く心配かけさせてぇ!」
ラミアがびっくりした表情で視線を送った先をミルフィーも見てみると、そこにはやわらかい赤の色をした髪をラミア同様に両サイドでロールパンの形にし、黄色いリボンで結んだ少女が佇んでいた。
だが、その少女とラミアとの決定的に違う点は・・・
彼女の両手には2本の剣が握られていた。
その時、赤髪の少女の表情が一変した。
「ラミア、そいつ、誰?」
「あ・・・お姉様、この人は・・・」
「うちの兵士じゃ、ないよね。」
赤髪の少女の手に力が入った。
「お姉様、違うの!!」
そして。
「ラミアから離れろおぉぉっっ!!!」
赤髪の少女がミルフィーに向かって駆けた。
「な、早い!!」
ミルフィーがそう思い、剣を構えようとしたが。
「しまった!剣は向こうに置いたままだ!」
ラミアを助けた時に、ラミアが剣を恐がる為に後ろに投げ捨てたのだ。
その時。
「あたしの妹に何をしたあぁぁっ!!」
ブォンッ!!
「くっ!」
赤髪の少女が振った剣を紙一重でかわし、そのままミルフィーは一気に後ろへ跳躍し、地面に置いてあった自分の剣を手に取った。
「あんた、蛮族じゃないわね・・・どうせ奴らが雇った傭兵か何かでしょ!」
「お姉様、聞いて!その人は、ミルフィーさんは悪い人じゃないの!」
「何いってんのラミア!こいつらはね!・・・・・・ミルフィー?ラミア、今こいつの事ミルフィーって言ったわよね?」
「・・・うん。」
赤髪の少女の顔がさらに厳しくなった。
「ってことは、こいつが『氷炎』の・・・!」
赤髪の少女が両手に持った剣を構えた。
「その手で・・・その手で何人の人を殺してきたの!?答えなさい、『氷炎のミルフィー』!!」
「!!・・・そんな・・・ミルフィーさんがあの・・・『氷炎』・・・。」
ラミアが愕然とした顔でミルフィーを見る。
「『氷炎のミルフィー』!あんたの命、ここで貰いうける!」
赤髪の少女が間髪入れずに再び剣を振る。
ブォン!ブォン!ヒュオン!!
「くっ、なんて早さだ・・・!!」
ミルフィーは赤髪の少女に押されながらもなんとか攻撃を防いでいる状態だった。
「どうしたの!?その程度の強さなの『氷炎』!それじゃああんたを倒しても、今まであんたに殺された仲間が浮かばれないわっ!!」
「くっ・・・!」
その時ミルフィーの目が凍った。
「!!。そうよ、その目だわ!その目でなくっちゃね『氷炎』!!!」
そして2人の剣撃が競り合いに入った。
「答えてくれ!その手に持つ2本の剣・・・まさか君が『グラナの双剣』なのか!!?」
「そっちではそうあたしは呼ばれてるみたいね・・・まぁいいわ。そうよ、あたしがあんた達の言ってる『グラナの双剣』よ!!!」
「なら・・・なら君が、ヨスクさんやアルセムさん、レイドさんをぉぉぉっ!!!!!」
ミルフィーの凍った目がその奥に炎を宿した。
「ああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!」
ギィィィィィィンッ!!!!!
「きゃああぁっ!!!」
ミルフィーの覚醒した力に、競り合いになっていた状況から赤髪の少女は後ろへ数十メートル弾き飛ばされた。
だが、流石に赤髪の少女も運動能力が卓越しているのか、空中復帰の体勢をとって地面に着地した。
「・・・やるわね。それがあんたの本来の、あたしの仲間を殺した力ね。」
「黙れ!!君だって僕の仲間を殺しているじゃないか!!自分が正義のような言い方をするな!!」
「そういうあんただってそうじゃない!蛮族の味方をしておいて、正義面しないでよ!!!!!」
切迫した状況下、2人の剣が再び交わろうとした刹那。
「どっちも正義なんてねぇさ。」
「!!」
茂みの中から1人の女性が出てきた。
「ランドさん!」
「よぉ、ミルフィー。お前の部隊が先に戦場に戻って来たんだが、なかなかお前が戻って来ねぇから心配して来て見れば、この有様たぁなぁ。」
「そう易々と戻れない状況になったからですよ。ランドさん、あなたも下がっていてください。このコ、相当できます!!」
「ああ、知ってるさ。スピアだろ?」
「すぴあ・・・?誰ですかそいつは。」
「あん?お前の目の前にいる女の事だよ。なんだ、サシの勝負で相手の名前すらわからずに戦ってたってのか?」
「目の前の女の事だよ・・・って、なんでランドさんがあのコの事を知ってるんですか!?」
「なんで、って言われてもなぁ。知ってんだからしょうがねぇだろ。なぁ、スピア。」
そうランドが言ってスピアと呼ばれた赤髪の少女の方を向く。
「久しぶりだね、ランド。」
「あぁ、あたしが傭兵団に入って以来ってとこか?」
ランドとスピアが親しげに会話を始めた中、ミルフィーとラミアがぽかんとしてそれを眺めていた。
そしてミルフィーは我に返る。
「ちょ、ランドさん!なに仲良く話してるんですか!一応このコも敵ですよ!?」
ミルフィーは忘れていた。
ついさっきまで自分がその敵の妹と話していたことを。
「あぁ、そうだね。そういや今は敵だったね。ってことでスピア。おとなしくあたしにやられてくれないかねぇ。」
ランドが大剣を構えた。
「そうもいかないのよね。」
スピアが双剣を構えた。
その時。
「スピア様―――――っ!スピア様――――っ!!」
茂みの奥から1人の兵士が出てきた。
「何事ですか!」
「はっ!ノースウッド部隊の大半が敵にやられました!!!」
「何ですって!?」
「目撃によるとアンチノースウッド族の者と奇妙な武器を持った有翼族の者にほとんどがやられたとの事です!」
「くっ・・・!全軍に伝えなさい!怪我人を救助しつつ撤退せよと!」
「はっ!!!」
スピアが兵士に命令をだし、兵士が去って行った。
「・・・アンチノースウッドって・・・どうせランド。あなたのことでしょ?」
「ご名答。あたしたち傭兵団の中にはアンチノースウッドはあたししか居ないからねぇ。」
スピアは歯をくいしばってランドに話しかける。
「運命って残酷なものね。」
「運命ってのはそんなもんだよ。」
「・・・・・・ラミア、行くよ。」
スピアがラミアの手をひっぱって行く。
「ちょ、お姉様、痛い!」
ラミアは去り際に哀しい目付きでミルフィーを見た。
「さてと。ミルフィー、この闘いはあたし達の勝ちだ。みんなのいる所に戻るよ。」
「あ、あぁ・・・。」
ランドとミルフィーはその場を後にしようとした。
だが、ミルフィーは少し後ろ髪引かれるように振りかえって足を止めた。
「ラミアちゃん・・・ごめん。・・・でも、これが僕達傭兵の姿なんだよ。」
ミルフィーが1人呟く中ランドの声が。
「なにしてんだミルフィー!置いてくぞ!!」
「あぁ、ごめん!今行く!」
そしてミルフィーは考えることになる。
それぞれの正義というものを。
ノースウッドやアンチノースウッド、蛮族や傭兵に至るまで。
全てのものには自分の信ずる正義があるということを。
例えそれが他人から見て悪であろうとも、自分にとっては正義なのだということを。
ミルフィーは遠くの空を見るように呟いた。
「僕の居た村を襲った奴らにも、正義があったんだろうか・・・・・・・・・でも・・・シルフィは、必ず助け出してみせる・・・!」
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